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院長

信じるな!

信じるな!


 このコラム(の特に春号)で僕はいままで散々デタラメを書いてきました。「先生、今回もだまされました~」と悔しがる患者さまの様子を見るのが何よりも楽しみなのです。それと、昨今問題となっている振り込め詐欺対策も兼ねて書いているつもりでもあります。詐欺に引っ掛かる被害者の多くは高齢者で、こなり眼科を受診される患者さまの多くも年齢層が重なることから注意喚起を行っているのです。人の話を安易に信じちゃダメだよ、と。どんな話も疑ってかかる習慣をつけることが詐欺被害に遭わないことにつながると僕は考えています。こなり眼科の患者さまが虎の子の大金を失うようなことがあっては悲し過ぎますからね。

 ところで先日、町田警察署から委嘱状が突然送られてきました。「こなり眼科を特殊詐欺被害防止アドバイザーに委嘱します」と書いてあります。さらには「院長とスタッフを特殊詐欺被害根絶の情報発信拠点に任命します」とも。この委嘱状は待合室の壁に貼ってあるので、この先を読みすすむ前にまずは確認してみて下さい。ね、本当に貼ってあるでしょう?最初はなぜこんなものが送られてきたのだろう、とまったく分からなかったのです。ところがこなり眼科の患者さまA氏の話からその理由が判明したのでした。

A氏も僕のデタラメ話にこれまで随分と引っかかってきた1人でした。どうやら信じやすい性格のようです。僕に何度も「そんなに簡単に信じちゃダメですよ」と言われていました。そんなある日、A氏の自宅に電話がかかって来ました。相手は警察官を名乗る男で、「あなたの口座から不正にお金が引き出されている。キャッシュカードを交換する必要がある」と告げたそうです。その瞬間に僕の言葉がA氏の頭の中を駆け巡ったといいます。「信じちゃダメですよ」。「これは詐欺だ!」とピンと来たA氏、だまされたふりをして犯人を捕まえることにしました。「金融機関の職員をご自宅に伺わせます」「分かりました」電話を切るとすぐに110番通報し、数分後には警察官が自宅に到着しました。すぐあとに訪れた男を自宅に招き入れたA氏は促されるままキャッシュカードを相手に渡し、暗証番号を伝えました。もっともらしい態度で別のカードをA氏に渡してその男は帰って行きました。その後男はA氏の本物のカードを使ってATMから現金を引き出したところを現行犯逮捕されました。そして捜査の結果犯人グループのアジトを急襲し、グループの多くの仲間を捕まえることができたそうです。

 大手柄を立てたA氏、掛かってきた電話が詐欺であることにすぐ気づくことができたのは、日頃からデタラメなコラムを読んで鍛えられていたからと警察で伝えました。そしてこなり眼科の院内誌『こんにちはこなり眼科です』を見せたそうなのです。僕の稚拙な文章を読んだ関係者が「これは確かにだまされる」「なかなかおもしろい」となってついにはこなり眼科に連絡してきたのでした。

 いろいろと警察の担当者と相談した結果、コラムの内容を加筆、修正したうえで一冊の小冊子にまとめ、都内の自治体の窓口などに置くことになりました。その冊子のタイトルはズバリ、『信じるな!』。なかなかインパクトがあるでしょう?著作権は辞退したので無料で配布されていますが、読んだ人達から好評の声が上がってるとかで、最近は関東はもとより他府県の自治体からも「自分のところにも置きたい」と、引き合いが来ているそうです。こなり眼科が有名になればいいなと思って引き受けた仕事ですが、全国にその名が轟くことになるかも。『信じるな!』を読んでA氏のように詐欺に気付く人が増え、被害が減れば僕としてはこんなに嬉しいことはありません。

つい数日前、今度は警視庁から「『特殊詐欺被害防止』に貢献しているあなたを表彰したい」という驚きの連絡がきました。すごく照れくさいですが、今度霞が関まで出かけてきます。もらった表彰状を自家用車の中に飾っておいたら軽微な違反なら見逃してくれるかな、な~んてセコイこと考えちゃダメですよ、たぶん。

どんなことでも長く続けていると何かしら他人から評価されるものなのだな、デタラメも続けて良かった、としみじみ思う今日この頃です。

 表彰式がいつ行われるかって? えっと、今日が4月1日だから・・・ え?? この展開はもしや・・・はい、大正解。エイプリールフールですね。もう大丈夫ですね?最初っから「信じるな!」って言ってるんだから、まさか引っかかっちゃった人はいないでしょうね。これだけ口を酸っぱくして言ってるのに信じちゃった人はもう、お仕置き確定です。

何度もいいますが、このコラムはいつだってデ・タ・ラ・メなんですから(町田警察署から届いた委嘱状だけは本物なのが不思議なんですけどね)。(第 61 号)

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院長コメント

最近は手術後の患者様の容態を確認するためにご自宅に電話すると「この通話は特殊詐欺防止のために録音されます、ご了承ください」というメッセージが最初に流れるご家庭が増えてきました。いいことです。どんな特殊詐欺も電話を介して行われている現状ではとても有効な手段だと思います。また常に留守電にしているところも多くなりました。我が家もそうしています。「ただいま留守にしています。ご用件のある方は発信音の後にメッセージをお残し下さい」というメッセージを聞き終わらないうちに「こなり眼科で~す」と叫ぶと「あ、どうも」と患者様が出てくれたりします。これもよいやり方ですよね。

でもさらに踏み込んで固定電話をやめるのが一番有効なのでは?と僕は思います。携帯を持っている人がほとんどの世の中です。わざわざ固定電話にかかってくるのはほとんどがどうでもいいマンションの購入を勧める不動産や投資関係のものです。本当に重要な要件は携帯にかかってきます。くだらなすぎて留守電を聞く気にもなりません。こんな固定電話、本当に要りますか?

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