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ネムール



「先生、手術後目薬をさすようになってから睡眠薬を飲まなくてもよく眠れるようになったんです」 

こなり眼科で白内障手術を終えたAさん。

手術前から不眠症があり、夜寝る時は睡眠薬が欠かせませんでした。

「それは良かったですねえ」

「あの目薬さすと眠くなる作用があるのかしら?」

「それはないですよ。むしろ手術を受けたこと自体が要因なんじゃないかな」

そう答えながらふと思いました。

「もしかして本当に目薬で眠れるのかも?」

人も大抵の動物も眠る時はまぶたを閉じています。

なぜまぶたを閉じるのか、疑問に思ったことはありませんか?

(たまにはまぶたを半開きにしたまま寝てる人もいますが。)

脳を休めるため外部から入る視覚情報を遮断する、あるいはまぶたを持ち上げるのに

エネルギーを使うので寝ている間は閉じるとか。

もちろん角膜や結膜が乾かないように保護するためということもあるでしょう。

でもそれだけなのでしょうか。

眠いからまぶたを閉じるのか、まぶたを閉じるから眠くなるのか、

皆さんはどちらだと思いますか?

僕は寝つきが異常に良くてベッドに横になった瞬間に眠りに落ちるという話は以前書きました。なので眠れない人の大変さは正直なところ理解できませんが、

睡眠薬に頼っている患者さまは意外と多く

苦労されている様子はいつも外来でみています。そこでこんな仮説をたてました。

「眠る時には涙の中に、ある成分が分泌されてその成分の作用によってまぶたが閉じる。」

眠くなると「眼がショボショボする」とよくいいますがこのショボショボさせるものこそ、その成分の正体なんじゃないか、と思い立ったのです。

さっそく研究を開始しました。患者さまの協力の元、不眠症の人と良く眠れる人に分けて、その涙を徹底的に採取しました。かつてドライアイの診断に用いていた涙を吸わせる試験紙が院内に大量に余っていて、それを利用したのでコストもほとんどかかりませんでした。

試験紙を結膜に当てて涙を吸わせるだけなので、ほんの数秒で採取は終了、簡単です。

ただ昼間起きている時と夜寝るときの涙を比較する必要があったので、

患者さまにやり方を説明し、自宅で涙を採取してもらい回収しました。

数万人分のサンプルが集まったところで成分の分析を都内のある研究施設に依頼しました。分析にはかなりの時間がかかりましたが、

依頼したのを忘れかけていた頃に連絡がきました。ついに見つかったのです。   

不眠症の人は涙の中の「ある成分」が不足あるいは欠乏していたのです。

僕がたてた仮説は正しかった訳です。

アメリカの科学雑誌に論文が掲載されたのが2年前のことです。

すぐに世界中で特許を取得しました。その特許を買い取った某製薬メーカーが

製品開発を進め、昨年世界初の「睡眠導入点眼薬」が完成しました。

すでに臨床治験は終了していますが効果は抜群!不眠症に悩まされていた人も寝るときに

目薬を一滴さすだけで眼がショボショボしてきて眠りに落ちます。

副作用もほとんど出ていないようです。先ごろ市販が開始されたのでこうして紹介できるようになったのです。もちろん処方箋医薬品なので処方箋がないと手に入れることはできません。製品名はシンプルに『ネムール』となりました(このネーミングは僕がメーカーに提案したのです、実は)。臨床の現場では医者からも患者さまからもシンプルで覚えやすいと好評のようです。ネムールが不眠症に悩む人たちへの福音となることを大いに期待しています。

Aさんの何気ない一言から始まった今回の研究。『まちの発明家』を自認する僕にとっては数件目の特許ですが、発明って案外そんなちょっとした会話などからヒントが得られるものなのです。「何か発明してやろう」と思って机に座って頭をひねってみても、ロクにアイデアが浮かんできたりはしないのですね。

一生かかっても使いきれないほどの特許料が転がり込んできました。お金には興味ないし、今回もどこかに全額寄付するつもりです。あ、そういえばネムールの発売記念講演会で講演をすることになっているのです。場所は東京国際フォーラム。一般の方も入場可能です。研究開発秘話を面白おかしく紹介するつもりなので、興味のある方はぜひ聴きに来て下さい。期日はえ~っと、いつだったかな。今日が4月1日だから・・・ん?4月1日? 

そうでした。今日はエイプリールフールでした。ここに書いてあることはAさんとの会話以外全部大うそ、まったくのデタラメ、大ボラです。ひっかかった?イヒヒ。どうりで話が大きい訳ですよねえ。皆さんも「すごーい」なんて人の話をすぐに信じ込んじゃダメですよ。何でも疑ってかからなきゃね。オチはいつもの通りで。ちゃんちゃん。


院長のコメント


「先生、私にも『ネムール』3本処方して頂戴!」

このコラムが載った号が出た頃、しばしば患者さまから頼まれました。

最後までちゃんと読んでいただければデタラメな話と分かるはずなのですが、読んでいる途中で欲しくなっちゃうんでしょうかね。

ただ睡眠剤を飲んでいる方は自分が思っていた以上に多く、潜在需要はかなりありそうだな、と思ったものです。

 点眼しただけで眠りに落ちるという、睡眠剤は内服という従来の常識を覆すなかなか画期的で夢のある話だと思いませんか?